ごあいさつ

秋も深まってきました。「長き夜や千年の後を考へる」子規の句です。私には千年も先のことは思いもおよびませんが、次の世代のことを考えて行動したいとは思います。

現在、輸血は一般に受け入れられ、医療に無くてはならないものになっています。しかし、輸血が初めて行われた時は、一般の人たちはもちろん、医学界にとっても未知のものでした。そのため宗教界をも巻き込む大きな論争が起こりました。この常識を超えた輸血というものを誰が、いつ、どのようにして考えついたのでしょうか。「輸血医ドニの人体実験」(ホリー・カッター著、寺西のぶ子訳)に当時の状況が詳しく書かれていますので紹介したいと思います。

人への輸血が初めて行われたのは1667年6月パリでのことです。患者は貧血と発熱の16才の少年でした。当時、発熱に対しては瀉血(しゃけつ)(血を抜き取る方法)が選択されるべき治療法で、少年も20回以上の瀉血を受けていました。しかし、効果がなく、現在では考えられませんが、子羊の血液が輸血されました。翌朝になると少年は元気になり、病は治ったようでした。

輸血を行ったのは、フランス南部のモンペリエ大学出身の若い医師ドニです。彼はパリで出世する野心を持っていましたが、パリ医学界は保守的で、パリ大学中心の社会でした。地方大学出身者にとってパリでの活躍は簡単なことではなかったのです。そんな折、イングランドで動物への輸血実験が成功したことを知り、ドニは人への輸血に成功すれば名声を得ることができると考えたのでした。

この輸血から遡ること39年(1628年)、イングランドのハーヴィが、血液は身体中を循環するという当時の常識を破る考えを発表しました。心臓から送り出された血液は燃え尽きて無くなり、循環するものではないという、ローマ時代から1500年間も信じられてきた医学の土台を揺るがせるもので、保守的なパリ医学界やカトリック教会には受け入れられるものではありませんでした。しかし、プロテスタントの国イングランドでは、若い科学者たちがハーヴィの説に感銘し血液循環説を確認しようとします。その手段として、動物の血管にありとあらゆる溶液の注入実験が行われました。その中の一人、外科医ロウアーは、静脈を通して栄養補給できないかと考え、犬に牛乳を注入したところ、犬は1時間後に死亡しました。解剖すると、血液は牛乳と混じりあい凝固していました。彼は、血液にはうまく混ざるものと混ざらないものがあると結論づけ、血液同士だとうまく混ざり栄養補給できるのではないかと考えます。これが輸血への第一歩でした。

1666年、ロウアーは一匹の犬(ドナー)からもう一匹の犬(レシピエント)へ血液を注入する実験を行い、ドナーの犬が失血死するまで輸血を続けました。レシピエントの犬は、輸血を受けながら別の部位から血液を抜かれますが生き延びました。輸血実験の成功です。次は人への輸血と考えましたが、不運にもロンドンが大火に見舞われ壊滅状態となり実験ができなくなりました。

そんな状況の中で、人への最初の輸血医としてドニが名乗りを上げたのでした。彼は、2人目として酒びたりの中年男に何がしかのお金を払って子羊の血液を輸血します。男は何事もなかったように帰って行きました。2回の成功に気を良くして3人目を行いますが、この被験者は亡くなります。ドニは殺人罪に問われ裁判にかけられました。無罪となりますが、フランスでは事実上、輸血は禁止されることになります。そして驚くことに、裁判所は、死亡原因は輸血ではなく砒素による殺人事件だというのです。(話は長くなりますので続きは次回にさせていただきます。)

ところで、今に目を向ければ、iPS細胞やES細胞などを利用したこれまで経験したことがない治療法が現実味を帯び、不妊治療も未知の領域に足を踏み入れています。当時と同じような状況なのかもしれません。

現在、皆様の善意の献血のお蔭で、安心、安全な血液製剤を患者さんのもとにお届けすることができております。今後ともご協力をお願いいたします。

平成29年11月
徳島県赤十字血液センター 所長 浦野 芳夫

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